理学療法士が開業権を与えられなかった理由を歴史的背景から紐解いてみる

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理学療法士

日本国民の医療への関心があるようであまり無い。一般の方に理学療法士や作業療法士について聞いてみると大抵が答えられない。答えられたとしてもリハビリをする先生としか認識されていないだろう。一般の方ならまだしも、残念ながら当の理学療法士が作業療法士との違いや柔道整復師との違いを明確に応えることが出来ない事がある。もしこれを読んでいる方が理学療法士であるのならば、改めて勉強し直して頂きたい。いや、勉強し直すべきである。

今回は理学療法士が何故アメリカのように独立開業する権利が得られなかったのかを歴史的な背景を考慮してお伝えしていく。実はこれに関しては『基礎理学療法学 シリーズ監修 奈良勲 編者 内山 靖』の冒頭部分に大方の内容が書かれているがのでぜひ読んで頂きたい。

 

理学療法士が行う「理学療法」が名称独占の理由

名称独占とは簡単に説明すると資格がないものはその「名称」は名乗る事が出来ないが、その「業務」は行うことが出来るという意味合いになる。理学療法士が提供する理学療法士はまさにこれである。逆に業務独占とはその「業務」は有資格者しか出来ない事を意味する。そのため医師や看護士以外が注射などを行なってしまえば罰せられてしまう。

そもそも理学療法が名称独占となった背景をご存知だろうか?時代は戦後まで遡る。米国に占領していた時代、最高司令官マッカーサー元帥が勧告を行った中に「リハビリテーション医療の推進」が含まれていた。アメリカと同様、医師の医行為やその後の看護士による看護だけでなく、理学療法士や作業療法士などによる医学的リハビリテーションを普及させなさいという意味合いだったのだろう。ここでよく考えて頂きたい。戦時中ですら資金に困っていた日本が戦後間も無く理学療法士を育成させる機関を作り、法を整備するのは資金面からみて到底不可能であった。そこで白羽の矢が立ったのが、従来から日本に存在した「鍼灸」「マッサージ」「柔道整復」などの資格を持つ方々だ。その方々に経過措置的に理学療法に従事させる政策をとったのは言うまでもない。そして今現在でもその名残が色濃く残っている。

1963年に日本初の理学療法士の養成が開始された。理学療法士を始めとした医療に関する技術者の養成については、技術分野として厚生省、学校教育については文部省所管であった。両者の協調が必要なのだが、当時は十分なものでは無かったそうだ。1974年以降、理学療法士になる為にはPT養成施設を卒業をし、国家試験に合格しなければならないのだが、現在でも診療報酬に関連した一部の理学療法施設基準には理学療法士ではない理学療法従事者の業務が認められている。その為、理学療法は業務独占ではなく、名称独占のままとなったとされる。

参考文献:標準理学療法学 専門分野 シリーズ監修 奈良勲 編集 内山靖 p2-4

 

3つの目標を掲げて日本理学療法士協会を発足した

1966年7月17日に日本で最大規模の理学療法士協会『日本理学療法士協会』が誕生した。この時に3つの目標を掲げていたそうだ。1つ目がWCPT加盟、2つ目が法人化、そして3つ目が業務独占である。偉大な先人達の活躍の末、発足して8年目の1972年には上記の2つの目標は達成された。しかし、理学療法士なら周知の通り未だに『業務独占』という目標は達成されていない。

以下参考文献(日本理学療法士協会発展の歴史と展望 著 松村 秩 p49)引用

 

PT、OT法が成立した時に生じた運動がPTの開業権を途絶えさせた

1976年PT、OT法が成立した時にそこに注目していたあん摩マッサージ業界、盲人などの団体が政府、国会に対して以下のような反対陳情を行なったそうだ。

(1)視力に障害のある者には、PT、OTの免許を与えない事がある旨の条項を削り、盲人にもこれらの資格を得られるようにすること。

(2)PTがあん摩マッサージ指圧師の業権を侵すことのないよう、病院、診療所以外の場所において、PTの業務を行う事を制限する。などの措置を講ずること

(3)もしPT制度を創設することがぜひとも必要であるとするならば、あん摩師や盲学教教員などについても、PTの資格を得られるよう、特別の措置を講ずること。

これに対して当時のPT、OT問題研究会や日本リハ医学会の反対を押し切って以下のような政府案が出された。

(1)の主張を認め、視力障害者に関する欠格条項から除かれた。こうして、この法はわが国で盲、ろう啞者に医療行為を認めた最初の法律となった。あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅうなどは医療類似行為であって、医行為ではない。

(2)の主張により、PTの開業制限は法案に明記されなかったが、実質的には開業できないようになった。この開業権の問題は、PT協会の抱えている大きな課題であり、何とかこの問題の解決を図って、将来PTの開業権を獲得しなければならない。

外来種である理学療法士に対して、在来種であるあん摩マッサージ業界などは自分達の仕事を奪われないように既得権を行使したのだろう。しかし、そもそもがその当時から理学療法士という業務内容に語弊が生じていたのかもしれない。あはぎ師や柔整師とPTの業務内容は似ているようで全く違うのだ。しかし、現代でもその違いが深く認知されていないように、色々な語弊が生じてPTには悔やまれる政府案が出されてしまったのかもしれない。しかし、当時(1970年代)の日本理学療法士協会会長松村秩氏はこの問題を直視し、開業権を獲得するように努めていたように思える。

以下参考文献(日本理学療法士協会発展の歴史と展望 著 松村 秩 p52)引用

 

新しい事やる前に己を知り、掲げた目標を達成なければいけないのでは?

こちらの記事(今一度、理学療法士の「開業権」を考える)に書かれているように、現在日本理学療法士協会では予防分野で活躍の場を増やしていく意向があるそうだ。しかし、前述した通り業務独占を目標に発足し、開業権を獲得するよう意識してきたはずだ。それがいつの間にか「開業に対して強く意識する時代がありましたが、学卒会員が増えるにつれて、徐々に開業を求める声が少なくなっていったのです。…」とされている。どう捉えるかは人それぞれではあるが、これでは難しい課題に対しては目をつむり、無かったことにしているように思えてしまう。先人達は確実に理学療法士自身の職域を理解し、問題に対して戦う姿勢をとってていたのではないだろうか?

理学療法の「業務独占」「開業権」に対する問題は歴史から学んでみると非常に根強いものがある。日本が敗戦してしまったからか?それとも理学療法士が外国から来た資格だからか

?はたまた従来から日本に存在するあはぎ師、柔整師の存在のせいか?さらには当時の理学療法士に対する認知がなかったからか?なにがいけないかは分からない。

しかしこれだけは言えるのではないか。

理学療法士は医療従事者だ。しかし、開業もすることも医療保険を単独で使うことも出来ない。しかし、あはぎ師、柔整師は医業類似行為者だけれども、開業ができ制限はあるものの医療保険を使うことが出来る。この矛盾からは目を背けてはいけないのではないか?

そして、身体に障害がある者に対して、基本的動作能力の回復を図る為に物理的手段を加えられる事が明記されているのは『理学療法』だけであり、それを行う事が出来るのは『理学療法士』だけである事を忘れてはいけない。

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